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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新・平家物語(しん・へいけものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 頁

青空文庫

実に、何の苦もなく、濡れ髪の一首級を獲て、たしかめるまでもない気がしながらも、小坪むかいの簀の子縁に出て、おりふしの月あかりに、それを、かざして見たのだった。

(ちいっ! しまったっ!)

かれは、恋人の首を、持っていた。

生涯にわたる傷魂の深手――懺愧と痛涙と滅失のうめきを、このときの一声にふり絞って、かれは、腰をぬかしてしまった。

――獣すら、かなしむのか。人間の愚を、怒るのか。

そのとき、厩の馬――あの四白の青毛が、異様な声を発し、ひづめをあがいて、いななき止まない。

盛遠は、突然、立ちあがって、何か、哭きわめくがごとく、灯のない屋内へものをいった。そして、抱えていた、血と濡れ髪とにまみれた冷たいものを、いよいよかたく抱え直したと思うと、ぱッと、籬、萩むらなど、おどり越えて、鬼影のごとく、どこかへ、走り去ってしまった。

…………

以上、今までの調べで判明した内容を、忠盛は、衆に告げて――さらに、人びとへいうには。

『これは、一女性、一地下人の問題ではない。院の御徳を晦うし、われら武者所の名にもかかわる。もし、刑部省の手にかかり、朝廷のおん裁きをうけては、われらなんの面目やある。