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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新・平家物語(しん・へいけものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 頁

青空文庫

清盛は、思わざる僥倖に、待たれたような気がしてきた。

例の、六条洞院裏の遊女宿で、それから、盛遠も飲み、清盛も飲み、淫らな女をあいてに、夜をふかしたことは、この前のときと変りがない。いや、部屋を分かって、女とふたりきりになってからは、清盛は、前より少し大胆になれた。いくらかでも、女と口がきけただけでも、ちがっていた。

『連れは……おれの連れは、どこへ寝たのか』

『あの人?』と、女はくすくす笑った。『あの人は、寝たことなんか、いちどもないんですよ』

『え。じゃあ、帰ったのか』

『いつでも、そんな風なお人。ほんに、何しに来るのやら、気がしれない……』

女はもう眠たいらしい。答えるのも、億劫そうに、清盛の首を、余るほどな力でいきなり抱きしめた。

『おれは帰る。盛遠め、何か、おれを試しているのだ』

清盛は、そこを、飛び出した。宵にもった美しい幻影の道づれは、もうかれについて来なかった。

あくる日。院の武者所に、盛遠は姿を見せなかった。次の日、また次の日も、出仕した様子がない。清盛は、気がかりになった。――それにひきかえ、いつ院中で出会っても、以来、幸福にみちた顔を向こうから先に示してくるのは、袈裟御前の良人、源ノ渡であった。