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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新・平家物語(しん・へいけものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 頁
だのに、なぜ清盛は、母にのみ、女の高い貞操を標準として、憎むのだろうか。そんな無理を――時代的に少ない例を――母の場合にだけ固執してみたところで仕方はあるまいに――と、これはかれにも、分かっていないことではない。けれど、子どもは母を、強いてでも、清らな女性、気だかい女性、純なる愛の権化とも、見たいのであった。いや、乳ぶさにすがって、幼いうわ目づかいに見まもってきた母なるひとは、たしかに、そう見えていたのである。長じて、ものまなびし始めてからでも、たれも母を、汚ない女とは、教えもしなかった。それが、卒然として、一個の、淫らな肉塊でしかなかったと分かったとき、清盛は、腹が立った。母の不潔が、自分の不潔に思われた。それまで、貧しくも、伊勢平氏の父と、清らな母の血とをもって、自分のなかに脈搏っていると信じていたものが、急に、どろどろな宿命の物質みたいに思われてきたのである。
あの遠藤盛遠から、初めて、母の実体を聞かされた晩に、かれは、惜しみもなく、遊女宿の女へ、二十歳の童貞を、うっちゃるように、くれてしまった。自己へのさげすみは、母へのさげすみであった。