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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 頁

青空文庫

今朝立つとき、ちょっと、思い出しはしたが、おそらく、彼女も忘れているのではないか。昨夜の容子をながめても、けろりと忘れはてているような風でもあった。――ならば幸いである。彼女のためにも。自分のためにも。

松琴尼とともに、尼院の裏に立って、自分の立つ姿を見送ってくれた彼女なので、友松はもうすッかり安心し、そのことについては、いささかの顧慮もなく、この相川堤まできて、ひとり久しぶりの旅心地にわれともなく佇んでいたところを、不意に、その於通に面とむかって違約をなじられたのであるから、五十をこえた男の彼が、まだ十七の小娘に顔をあからめてどぎまぎしたのも、あながち故なきことではない。

「春も、春さきは、一しおよい、平和だなあ」

友松は、相川の大きくゆるやかにゆく水の曲線にむかって、ひとりごちに云ってから――

「こんな平和な自然も、あと幾日、無事でいるやら。おそらくこの堤の桜が咲きそろう頃には、この辺りも、軍馬に荒れ、弾けむりや血泥にまみれ終るだろうよ」

「ゆうべのお客たちのはなしでは、また大きな合戦になりそうな……」

「なるな、いやでも。きっとこんどのは世をあげての大戦乱になる。