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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 頁
「はてな。もうここを通ったものか。――まだなのか?」
彼方に農家の灯が見える。背戸へ近づき、三蔵は訊ねてみた。
「おっさん。今し方、何かここを通らなかったかね。――たくさんな馬や武者が」
牛小屋で牛の鳴き声がした。人影が振り向いている。牛が返辞をするように聞えた。
「そうよな。通ったようでもあるわい。なんじゃったやら。えらい迅いことじゃあったし、よう知らんが、東の方へ、たくさんに、駈けおったには、駈けおったようじゃ」
その百姓の女房でもあるか、べつな女の声で、また云った。
「それよか、もっとめえだがよ。まだ明るいうちにの、鮎舟を二十艘も三十艘も牛車に乗せて、東さ向いて行ったがの。鵜飼衆が川へ寄るには、まだ早すぎるが、犬山に祭りでもあんのかよ」
三蔵は、返辞とも自分への叱咤ともつかず、しまッたと、身を刎ね返して、
「ウム、祭りだ。犬山は血祭りだ。下手アすれやあ、おれの方も後の祭りだ」
と、足のかぎり犬山街道をさらに東へ向って走った。月もおぼろ、道も夜がすみ、初更はすぎていた。
犬山・陥つ
犬山の町、犬山の城は、すぐ対岸であった。隔つ一川はいうまでもなく木曾の上流。