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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 頁

青空文庫

“通るべからず”

の制札がいかめしい。

村にも、人はいず、ただ野良犬の声ばかりだ。

遠くに霞んでいる山の方へゆけば、たくさんな人民が疎開しているにちがいないとは考えるものの――さて、かの女の性格では、それまでにして、生命の無事をはかるのも、嫌だった。

「戦をこわがって、穴にかくれていても、死ぬときに死ぬ。いっそ、戦のあるまん中へ行って、本陣をたずねてゆけば、ものの分る人がいるであろう」

――そこでかの女は、犬山城の白壁を目あてに、曠野の道を、ここまでは来たが、川原を歩いても、小舟はなし、木曾の奔流は、瀬や岩々に、白いしぶきを激し、いくら大胆なかの女でも、渡りも得ず、たださまよいつづけていた。

「……晩には」

と考えると、さすがに気の勝っているかの女も、まだ十七歳の処女らしく、どこに寝よう、どうして喰べよう、さまざまな脅えが、胸にせまってくる。

疎開したあとの農家には、何かしら喰べ物もあり、夜のむしろも、そこを借りては過ごして来たが――このあたりには、そんな小屋もあるかどうか。

つかれも出て、かの女は、やがて川原の石に腰をおろした。そしてぼんやり、夕雲を仰ぎながら、越し方行く末を、夢のように、えがいていた。