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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

後に、信長は愛馬二図の画を描かせて屏風に作らせたが、その中にはこの一頭も描かれていた。

熱田の宮を出ると、それまで、疾風の如くであった信長の態度は、どこか緩々たる余裕を示し、駒の背へ、横乗りに身をのせ掛けて、鞍の前輪と後輪へ両手をかけながら揺られて行った。

もう夜が明けてきたし、雪崩れ打って先駈けを争って行く兵馬の跫音に、熱田の住民たちは、女子供まで、軒下や辻々へかたまって、見物していた。

そして信長の姿を、信長と知ると皆、

「あれが今、軍しに行くお人か」

と、呆れ顔した。

「心もとなや」

「勝ち給うことは、万に一つも、おざるまいげな」

などと囁いた。

清洲から熱田まで、鞍に踏みまたがったまま、一気に駈けて来たので、信長は鞍疲れを癒しているのだった。で、鞍の後輪へやや凭れぎみに横乗りして、

――死のうは一定

忍び草には何としようぞ

一定語りをこす夜の

小謡など口誦さんでいた。

「や、や」

「あの黒煙は」

町端れの辻まで来ると、兵馬は急に立ち淀んだ。

道を海辺にとって、浅瀬を渡渉し、山崎、戸部の方面へ出て行くか、陸地を迂回して知多の上野街道から井戸田、古鳴海へさして行くか、行軍の疑問が起ったのと――同時にはるか、鷲津、丸根の方角と思しき彼方に、二ヵ所の黒煙が立ちのぼっているのを見出したからであった。