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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁

青空文庫

、颯と、一山の木々の葉裏を白く戦がせて落ちて来た。

「……おやッ?」

一人の雑兵がいった。

眼を、空へ吊って。

わらじまめの足の指に、膏薬を貼っていたのが、

「なんだ? おい」

「見ろ」

「何を」

「変な雲が出て来やがった」

「雲が。……む、なるほど」

「降るかな、夕方には」

「雨は欲しいが、俺たち、道普請や荷担ぎばかりして歩く組には、雨は敵が出るよりも禁物だ。桑原桑原、なるべく、あっさり通り雨で欲しいものだ」

今建てた彼方の幕屋にも、頻りに風がうごいて来た。その辺りを、見廻っていた組頭の武者は、

「さあ、起て」

と、部下を促して、

「こよいのお泊りは、大高の城だ。沓掛から大高へ真ッ直に前進と、敵には思わせて、わざと道をかえ、桶狭間からこの間道へと迂回なされたが、晩までには、そこへ御到着の予定。――道々の小橋や、崖や谷づたいの異状なきように、われわれは検めながら先へ進むのだ。――さあ出発するぞ」

その人声も、影も去って、山は元の静寂へ回った。どこかで、昼の螽が啼いていた。

間もなく、盆地の山陰を、遥かのほうから軍馬の気はいがして来た。螺も吹かず、鼓も鳴らさず、山巒の間を縫って、極めて粛々と来るのであったが、五千余騎の兵馬の歩みは、いかに静かにと努めても、天地のあいだその塵烟と蹄の音とを潜めきるわけにはいかなかった。