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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 頁
その遺産があったればこそ、田楽狭間の一挙も、あの功を奏したのである。いかに、自己の死を決し、また兵に向って、死ねやとさけんでも、主君として立ってまだ徳の浅い、月日も短い、自身だけの手飼に過ぎない兵と、伝統のない織田家であったら、どうして、あの大捷を博すことが出来得たろうか。
戦い終って後。勝っての後。信長はひとり静かにそう思うことがしばしばであったし、今また、義輝将軍から、計らずも父の遺徳をうわさされたので、こうして義輝が会ってくれたのも、その徳の一つと、沁々、今さら有難さを覚えたことであった。
四方山のはなしの末に、
「こたびは、ほんの微行の上洛。それに尾張の田舎者、何ひとつ、都人のお目に珍しき国産とてもござりませぬが」
と、手土産の目録を献じ、やがて信長は、暇をつげて、退りかけた。
すると、義輝将軍は、
「待つがよい」
と、信長をひき止めて、程なく黄昏れともなろうから、食事をしてゆくがよいと云い、席を饗応の間へ移した。そして、酒を賜うことになった。
東山義政の数奇と風雅をこらした苑があった。紫陽花色の夕闇に、灯に濡れた苔の露が光っていた。どんな席に置かれても、眼上の前でも、至って窮屈がらない質の信長は、眼八分に持ってくる銚子にも、小笠原流の料理、故実のやかましい膳部も、極めてこだわりのない姿で、