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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 頁

青空文庫

「……いいえ」

「では、誰じゃ」

「誰だろ? ……黙って」

気味わるげに、おつみが、声を嚥んでいると――

「おっ母」

日吉の声だった。

暗い土間に立ったままで。――そしてじっと、いつまでも、上がって来ようともしないのであった。

「おやッ。日吉じゃないか!」

「……うん。おらだよ」

「ど、どうして、今頃」

「茶わん屋から暇が出たから帰って来たんだよ」

「えッ、お暇が出た……」

「かにんして。なあ、おっ母さん。かにんして……」

土間の闇に、すすり泣きがする。――お奈加も、おつみも、そこへ転ぶように出て行った。

「お暇の出たものを、今さらどうしようぞ。さ、お上がり。……なぜいつまで、立っているのじゃ」

手を取ると、日吉は首を振って云った。

「いや、上がらずに、おらはまた、すぐ行くよ。一晩寝たらまた、おっ母のそばを離れるのが嫌になるから……」

この貧苦と、事情の複雑なところへ、日吉がふいに、暇を出されて帰って来たことは、彼の母には、胸にこたえる当惑だったが、上がりもせずすぐにまた、この夜の夜中、出て行くという彼の言には、なおさら胸を傷めて、驚きの目をみはった。

「どこへ行くのじゃ。