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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 頁

青空文庫

……お望みなら、舷を手でたたいて、オーイと呼んでごらんなさい。すぐ漕ぎよせて来ますから」

五郎大夫は、聞き流して、闇をながめていた。

琵琶はやんだ。

そして、通りすがった蘆間の蔭に、一艘の船を見た。竹で編んだ苫のうちから、薄い灯火の光が洩れ、その明りの中に、耳環をした女の白い顔が見えた。

「……?」

もとより梨琴ではない。

けれど彼女の心と、五郎大夫の心とは、この星の下と、波間のうえとで、明らかに交流していた。

「日本に帰っても」

と、彼は独り思った。形の上の別れが、絶対の別れではないと思った。

一つの花が、他の一つの花へ、花粉を触れた時、それから生れ出た物は、永遠に地上から消えない芽を土から持つ。

その芽は、自然が手伝って、繁茂する。花になりまた、結実する。

千里を隔てていても、土と土とが、また――心と心とが、かくまで似ている二つの国では、そうした文化の交流は、雨と海水とのように、何千年も前から自然に行われて来た作用であった。

深夜。長江の秋だ。

五郎大夫は、東へ東へと、揚子江を下ってゆく船の上でも、そんなことを想いつづけた。

自分が、この江を溯って来たのも、その作用の一役を、自然が命じているのである。