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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 頁

青空文庫

だから彼は、その第一の希望が達しられないうちに、自分の慾望を先に満たそうとは思わなかった。

それにはまた、彼には彼のみの、べつな楽しみがあったから、物の慾には我慢も出来たということもいえよう。その楽しみというのは、流浪の行く先々で、飢えを思う遑もなく、

=識らないことを識る。

と、いう楽しみだった。

世間の機微、人情、風俗。――それから時勢の相だの、諸国の武備だの、百姓町人の生活の様だの。

武者修行する者は、応仁頃から室町の末になるほど、流行もののように、多くなって来たが、日吉も、ここ一年半ばかりは、ちょうど、それと同じような辛苦と生活をして歩いて来た。

けれど彼は、武術を目がけて、長剣を差して歩いて来たのではない、わずかな金で、問屋から針を仕入れ、木綿針や絹針を小さなたとうに包み、それを行商しながら、甲州、北越のほうまで歩いて来たのだった。

(――針はいらんか、京の縫針じゃ。買うておかんか、木綿針、絹針、京の縫針)

日吉は、諸国の町を呼び歩きながら、わずかな利で、生きて来た。

しかし。

零細な針売りの利益で口は喰べても、針の穴から世の中を見るような、小さい人間にはならなかった。