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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 頁

青空文庫

(やろう!)

と思い立つことも、

(止めよう)

とする意思も、彼の心のなかでは、常に、夕立雲の如く、唐突に去って、唐突に起ってゆくので、彼自身さえ、自身を規律で制していることができないらしかった。

あわてるのは近侍であった。

きょうは珍しく、書物に親しんでおられる――きょうはまた可憐らしく、亡き御先代のために、お仏間にお坐りになった――。などと油断していると、雷の子のように、

「卯月ッ。卯月を曳けッ」

と、声がする。

声がした時にはもう、そこにはいないにきまっていた。時を嫌わぬこの殿の行動に、近侍たちはあわをくって、厩へ駈け、馬場へ追いかけ、それでも、

(何を愚図愚図している)

と、いわぬばかりな顔をしている主人の前へ、ようやく駒を曳いて行くのだった。

卯月というのは、彼が乗り馴れた白い愛馬だった。しかしこの馬もやや老境に入って、旺んな信長が乗り叩くには、彼も物足らなかったし、馬も物憂くなっていた。

「……ち。ち。ちッ」

信長は、口輪を持って曳きまわしていたが、

「重いのう。水を飼え」

と命じた。

「はッ」

馬柄杓を把って、ひとりは馬の口を開け、がくと水をぶっかけた。