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ほしのくんのにるいだ

新版・星野くんの二塁打

吉田 甲子太郎

線上閱讀吉田 甲子太郎《新版・星野くんの二塁打(ほしのくんのにるいだ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 10,945 字 · 22 頁

青空文庫

着てしまうと変にからだを動かしてはわるいような気がした。

「むこうを向いてごらん。――ちょうどいいようだね。とてもりっぱだよ。」

しかし、光吉は、母に背を向けたまま返事ができなかった。何か、あついものが胸をいっぱいにした。大きなのぼりをかついで寒い風の中を進んでいく母のすがたが、目のまえのやぶれたしょうじの上をとおっていくのだ。

おぞうにがこげるといって光吉をせきたてた母親は、いつまでも光吉を立たせてながめていた。

光吉の学校で拝賀式がおこなわれている時刻に、母は校舎のすぐうらにある緑ガ丘の朝霜をふんで、そこにたたずんでいた。窓ガラスごしに、式場のありさまを見まもっているのだ。すがすがしい初日の光りがうしろからさして、ひっつめた髪を照らすのが、まるで頭のまわりに光りの輪をかけたように見えた。くちびるには、さも満足げなほおえみがうかび、柔和な目には、深い喜びの色があった。

けれども、新しい洋服にからだをつつんで、全校の視線をあびながら、はれの壇上に立った光吉は、窓のそとの冬がれの丘から、母の慈愛のまなこが自分を見まもっていてくれることを、まったく知らなかった。