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いちかわくめはち

新編 近代美人伝 (下)

長谷川 時雨

線上閱讀長谷川 時雨《新編 近代美人伝 (下)(いちかわくめはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 138,172 字 · 277 頁

青空文庫

という月刊雑誌を出したりして、若い女性たちとも、顔をあわせることも多くあったし、その時分も、浅草公園裏の薄茶の店の、石井おとめとの関係もあったのだが、この小説家志願娘には心をひかれた。

――いなにはあらぬいなぶねの――

そんな句も、詩人美妙の胸には、ふと浮かんだかも知れない。

「稲舟って好い名だな。錦子さんでも好いけれど、最上川がそばなのでしょう。みちのくというと、最上川だの、名取川だの、衣川だの、北上川だのって、なつかしい川の名が多い。父が、ずっと、あっちにいたからかも知れないが――」

美妙は、無口な娘を前にして、そんなことをいった。

美妙斎のお父さんは、維新前後奥州の方にいっていて、美妙の武太郎は明治元年の夏留守中に生れたのだった。その後、長野県の方にお父さんは警部をつとめていて、美妙は、やかましい祖母さんと、お母さんに育てられた、内気な、おとなしい息子だった。

父親が懐しかった少年時を思出して、美妙は、あっちの方の川の名など数えたりして見た。

「絵はやめてしまうのですか?」

「ええ。」

「小説を書こうというの?」

「ええ。」

十七でしたね、と訊いてから美妙はおもしろい暗合を思い出していた。