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ファルスについて

日本文化私観 坂口安吾エッセイ選

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《日本文化私観 坂口安吾エッセイ選(ファルスについて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,974 字 · 47 頁

青空文庫

「古池や蛙飛び込む水の音、淋しくもあるか秋の夕暮れ」

私は、右の和歌を、五十嵐力氏著『国歌の胎生並びにその発達』という名著の中から抜き出して来たのであるが、五十嵐氏も述べていられる通り、ここには親切な下の句が加えられて、明らかに一つの感情と、一つの季節までが附け加えられ説明せられているにも拘わらず、この親切な下の句は、結局芭蕉の名句を殺し、愚かな無意味なものとするほかには何の役にも立っていない。言葉の秘密、言葉の純粋さ、言葉の絶対性――と、如何にも虚仮威に似た言い分ではあるが、この簡単な一行の句と和歌とで、その実際を汲んでいただきたい。言葉をいくら費して満遍なく説明しても、芸術とは成り難いものである。何よりも先ず、言葉を駆使するところの、高い芸術精神を必要とする。

文学のように、如何に大衆を相手とする仕事でも、その「専門性」というものは如何とも仕方のないことである。どのように大衆化し、分り易いものとするにも、文学そのものの本質に附随するスペシアリテ以下にまで大衆化することは出来ない。その最低のスペシアリテまでは、読者の方で上って来なければならぬものだ。