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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(一)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(一)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,540 字 · 319 頁

青空文庫

「吾妻橋を渡りましたら駕籠がありましょう。いや、これはどうもいろいろ御厄介になりました」

男は世話になった礼だと云って、女房に一朱の銀をくれた。こっちが辞退するのを無理に納めさせて、新しい蝋燭を貰って提灯をつけて、かれは傘をさして暗い雨のなかを出て行った。出たかと思うと、やがて又引っ返して来て、男は店口から小声で云った。

「どうか、今晩のことは、どなたにも御内分にねがいます」

「かしこまりました」と、亭主は答えた。

そのあくる日である。下谷御成道の道具屋の隠居十右衛門から町内の自身番へとどけ出た。昨夜、中の郷の川ばたを通行の折柄に、何者にか追いかけられて、所持の財布を取られたうえに、面部に数カ所の疵をうけたというのである。その訴えによって、町奉行所から当番の与力同心が下谷へ出張った。場所が水戸様の屋敷の近所であるというので、その詮議もひとしお厳重であった。十右衛門は自身番へ呼び出されて取り調べをうけることになった。

「半七。よく訊いてみろ」と、与力は一緒について来た半七に云った。

「かしこまりました。もし、道具屋の御隠居さん。お役人衆の前ですからね。よく間違わないように申し立ってくださいよ」