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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(一)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(一)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,540 字 · 319 頁

青空文庫

今年も十九日の夕方から幕をあけた。それはすこぶる大がかりのもので、奥座敷を三間ほど打ち抜いて、正面には間口三間の舞台をしつらえ、衣裳や小道具のたぐいもなかなか贅沢なものを用いていた。役者は店の者や近所の者で、チョボ語りの太夫も下座の囃子方もみな素人の道楽者を狩り集めて来たのであった。

今度の狂言は忠臣蔵の三段目、四段目、五段目、六段目、九段目の五幕で、和泉屋の総領息子の角太郎が早野勘平を勤めることになった。角太郎はことし十九の華奢な男で、ふだんから近所の若い娘たちには役者のようだなどと噂されていた。若旦那の勘平は嵌り役だと、見物の人たちにも期待された。

舞台では喧嘩場から山崎街道までの三幕をとどこおりなく演じ終って、六段目の幕をあけたのは冬の夜の五ツ(午後八時)過ぎであった。幾分はお追従もまじっているであろうが、若旦那の勘平をぜひ拝見したいというので、この前の幕があく頃から遅れ馳せの見物人がだんだんに詰めかけて来た。燭台や火鉢の置き所もないほどにぎっしり押し詰められた見物席には、女の白粉や油の匂いが咽せるようによどんでいた。煙草のけむりも渦をまいてみなぎっていた。