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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(一)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(一)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,540 字 · 319 頁

青空文庫

いくら呼んでも返事はなかった。ただ時々狐の声がきこえるばかりであった。

「狐に化かされたんじゃあるまいか」と、又蔵は不安らしく云った。

「まさか」と、平助はあざ笑った。しかし彼にもその理窟が判らなかった。自分がうずくまって草履の鼻緒を立て、又蔵がうつむいて提灯をかざしているうちに、大三郎の姿はいつか消え失せたのである。わずかの間にそんなに遠いところへ行ってしまう筈がない。呼んでも答えない筈がない。殊にあたりは往来のない暁方であるから、誰かがこの美少年をさらって行ったとも思われない。平助は実に思案に余った。

「そう云っても子供のことだ。あんまり寒いので無暗に駈け出して行ったのかも知れない」

二人はここに迷っていてもしようがないので、ともかくも聖堂まで急いで行った。係りの役人に逢って訊いてみると、杉野大三郎どのはまだ到着されないとのことであった。二人は又がっかりさせられた。よんどころなく再び引っ返して、もと来た道を探して歩いたが、どこにも大三郎の姿は見付からなかった。

「いよいよ狐に化かされたか。それとも神隠しか」と、平助もだんだんに疑いはじめた。

この時代には神隠しということが一般に信じられていた。