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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(一)
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(一)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,540 字 · 319 頁
二人は町内にはいって二、三軒も通り過ぎたかと思うと、質屋の天水桶のかげから何かまっ黒な影があらわれた。それが何であるかを認める間もなしに、その黒い物は地を這うように走って来て、いきなり佐兵衛の足をすくった。屈んでいた彼はすぐに滑って倒れた。ふだんからおびえていた伝七はきゃっと云って逃げ出した。
この臆病者の報告を聴いて、長作は棒を持ってこわごわ出て来た。伝七も得物をとって再び引っ返して来たが、もうその時には黒い物の影も見えなかった。佐兵衛は転んだはずみに膝を痛めた。まだそのほかに、相手にぶたれたのか、あるいは自分で打ったのか、彼は左の額に石で打ったようなかすり傷をうけていた。
調べてみると、その晩も権太郎は外出しないという証拠が確かに挙がった。こうして、悪戯小僧にかかる疑いは漸次に薄れて来たが、それと同時にこの不思議に対する疑いはいよいよ濃くなった。臆病の伝七の云い立てによると、どうも河童らしいというのであったが、町なかに河童が出る筈はないと云って誰もそれを信用しなかった。
「どうも人間らしい」
この頃は方々の家で食い物を盗まれた。ことにお咲をおどかした遺り口といい、佐兵衛を襲った手段といい、妖怪がだんだんに人間味を帯びて来たことは誰にもうなずかれた。