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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(一)
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(一)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,540 字 · 319 頁
半七はその六畳のまん中へ蜜柑を二つばかり転がし込んだ。それから女中部屋の襖をあけて、そこへも一つ投げ込んだ。入口の障子を元のように閉め切って彼は再び沓脱へ降りた。
「静かにしていろよ」と、彼は権太郎に注意した。
二人は息をのみ込んで控えていると、外のあられの音はまた止んだ。内では何の物音もきこえないので、権太郎は少し待ちくたびれて来たらしかった。
「ここにも居ねえのかしら」
「静かにしろと云うのに……」
この途端に、奥の方でがさりという微かなひびきが聞えたので、二人は顔をみあわせた。何者かが障子の破れをくぐって、六畳の間へ這い込んで来るらしく思われた。それは猫のような足音で、畳にざらざらと触れる爪の音がだんだんに近づいて来た。じっと耳をすまして聴いていると、その者は半七の投げこんだ蜜柑をむしゃむしゃ食っているらしかった。
「畜生め」
半七は笑いながら権太郎に眼くばせして、二人は草履を手に持って一度に障子をあけた。つづいて次の襖を蹴ひらいて、六畳の座敷へばらばら跳り込むと、うす暗いなかには一匹の獣がひそんでいた。獣は奇怪な叫び声をあげながら、障子を破って縁側へ逃げ出そうとしたところを、半七はうしろから追い付いてその頭を草履でなぐった。