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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(三)
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(三)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,612 字 · 405 頁
狂言は二日がわりで、はじめの二日は盆前のために景気もあまり思わしくなかったが、二の替りからは盆やすみで木戸止めという大入りを占めた。その替りの外題は「優曇華浮木亀山」の通しで、切に「本朝廿四孝」の十種香から狐火をつけた。通し狂言の「浮木亀山」は、いうまでもなく石井兄弟の仇討で、紋作は石井兵助をつかい、冠蔵はかたきの赤堀水右衛門を使っていた。
その初日の夜である。芝居の閉ねたのはもう九ツ(夜の十二時)をすぎた頃で、一座のものは楽屋に枕をならべて寝た。田舎の小屋の楽屋ではあるが、座頭格の役者を入れる四畳半の部屋があって、仲のいい紋作と冠蔵とはその部屋を占領して一つ蚊帳のなかに眠った。疲れ切っている二人は木枕に頭を乗せるとすぐに高いびきで寝付いてしまったが、およそ一も経つかと思うころに紋作はふと眼をさました。建て付けの悪い肱掛け窓の戸を洩れて、冷たい夜風が枕もとの破れた行燈の灯をちろちろと揺らめかせている。信州の秋は早いので、壁にはこおろぎの声が切れぎれにきこえる。紋作は云いしれない旅のあわれを誘い出されて、遠い江戸のことなどを懐かしく思い出した。自分たちを置き去りにして土地の廓へ浮かれ込んだ一座の或る者を羨ましくも思った。