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ほんじょりょうごく

本所両国

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《本所両国(ほんじょりょうごく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 頁

青空文庫

昔はこの川蒸汽も一銭蒸汽と呼んだものである。今はもう賃銭も一銭ではない。しかし、五銭出しさえすれば、何区でも勝手に行かれるのである。けれども屋根のある浮き桟橋は――震災は勿論この浮き桟橋も炎にして空へ立ち昇らせたであろう。が、一見した所は明治時代に変っていない。僕等はベンチに腰をおろし、一本の巻煙草に火をつけながら、川蒸汽の来るのを待つことにした。

「石垣にはもう苔が生えていますね。もっとも震災以来四、五年になるが、……」

僕はふとこんなことをいい、O君のために笑われたりした。

「苔の生えるのは当り前であります。」

大川は前にも書いたように一面に泥濁りに濁っている。それから大きい浚泄船が一艘起重機をもたげた向う河岸も勿論「首尾の松」や土蔵の多い昔の「一番堀」や「二番堀」ではない。最後に川の上を通る船でも今では小蒸汽や達磨船である。五大力、高瀬船、伝馬、荷足、田舟などという大小の和船も、何時の間にか流転の力に押し流されたのであろう。僕はO君と話しながら「※(「さんずい+元」、第3水準1-86-54)湘日夜東に流れて去る」という支那人の詩を思い出した。こういう大都会の中の川は湘のように悠々と時代を超越していることは出来ない。