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まつかぜのもん
松風の門
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《松風の門(まつかぜのもん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,862 字 · 26 頁
ぬくぬくと陽を浴びた草原が茫と霞んで、遙かに遠く幼い日のことが、まざまざしく思出された。血まみれになって転げている自分と、それから唇を白くして、驚きのあまり白痴のようになった彼の表情とが。
――あの日以来、彼はいつか身命を擲つ日の来ることを待っていたのだ、其の日の他にはなんの役にも立たなくともよい、そう覚悟していたのだ。それで娶っても子を生むことを欲しなかったのだ。宗利には初めて八郎兵衛の本心が分った、そしてその事実は誰にも知られず、死んだ八郎兵衛と自分だけの秘密だと思い、――分ったぞ、よくした八郎兵衛、と胸いっぱいに叫んだ。
「墓へまいってやりたいが」宗利は暫くして云った、「忍びで、このまま直ぐに行きたいが、供するか」
「お供仕りまする」
大学は静かに眼を押拭った。
城を出た二人は、馬を駆って城北祗陀林寺へ向った。少しまえから風が出て、やや傾きかけた陽が雲に隠れたので、空気はひどく冷えて来た、宗利は先に馬を駆っていたが、道から寺の山門へかかるあいだの、左右に松並木のある参道まで来るとそこで馬から下りた。
二人は馬を繋いで歩きだした。松風が蕭々と鳴っていた、前も後も、右も左も、耳の届くかぎり松風の音だった、宗利は黙って歩いていった、石段を登って、高い山門をくぐると、寺の境内も松林であった。