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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

裾から見える股の部分が目にしみるほど白い。思わず眼を外らそうとした時、女は寝ころんだまま咽喉を反らせて高い声で歌い出した。呂律の乱れた声であったけれども、それは目が覚めるほど鮮かな肉体の声であった。

みよや十字の旗高し

君なるイエスは先立てり

讃美歌ではないかと、宇治は血走った眼をぎょっと見開いて女を眺めた。脚先を揺って調子を取るたびに蓆の縁から微塵が立って、赤い光線の中をゆらゆらと動いた。女は突然歌い止めると大きな声で笑い出した。そんなに大きな声を立てたら悟られるではないか、宇治はふと混乱してそんな事を考えながら、不安な視線を男の方にもどした。

「そうすれば花田は原隊に戻ったのか」

それならば連れの女はどうしたのか。何故途中で宇治達と逢わなかったのか。宇治は帽を上げ掌で額を押えた。女は笑いやめた。

「原隊にではありません」

なに、と宇治は思わず頭を上げた。男は脚を土間に垂れ片手で上半身を支えて、するどく宇治を見ている。宇治と視線が合うと突然白い歯を出して笑ったようであった。憤りが宇治の胸をついて上った。畳み込んで宇治は訊ねた。

「何処に行ったんだ」

男は卑しげな笑いを唇辺に浮べたままであったが、その問いに答えようか答えまいかと一寸口ごもった風である。