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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

日はすでに入り、あたり一面は黄昏である。その花は、冥府の花のように、白く垂れ下っていた。彼はその木に近づき、指で花びらをさわって見た。花はゆらゆらと揺れた。声がした。

「こんばんは」

五郎は道を見上げた。道には女が立っていた。軽装で、手に団扇を持っている。ちょっと涼みに出たという恰好であった。

「こんばんは」

五郎もあいさつを返した。女はスカートの裾を押えるようにして、斜面を降りて来た。

「何をしているの?」

女は人慣れた口調で言った。香料のにおいがただよった。

「さっきから見てたんですよ。あなたはここの人じゃないね」

五郎はうなずいた。

「遠くからやって来たんだよ。時にこの花、何という名前だったかな」

「ダチュラ」

女はすぐに答えた。唇には濃めに口紅を塗ってある。商売女かな、と彼は一瞬考えた。

「原名は、エンゼルズトランペット」

「エンゼルズトランペット?」

五郎は花に視線を据えて、考え込む顔付きになった。入院前に読んだ旅行記、たしか北杜夫という作家の種子島紀行の一節に、

『ダスラ(この土地ではゼンソクタバコと呼ぶ)の白い花などが目につく』

と書いてあったと思う。