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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

「もう、しおれましたな」

主人はダチュラを指でつついた。

「こいじゃから活花になりもさん」

「何だか陰気な感じのする花ですな」

五郎は水いかを食べながら、相槌を打った。

「二十年前もそう思った。葬式花みたいだとね」

二十年前の話になった。主人の言では、この家屋は軍に接収され、泊へ疎開していた。だから戦中の坊のことは、あまり知らない。

「妙な造りの部屋でしょう」

主人は立って説明した。一見壁に見えるところを開くと、かくし部屋がある。そして障子をあける。

「階段から敵がのぼって来ると、ここから飛び降りて逃げる」

「なぜ逃げるんです?」

五郎は冗談めかして言った。

「わたしには逃げる必要はないですよ」

「いや。密貿易の時代の名残りですよ」

主人は笑いながら、座に戻って来た。

「ここが島津藩の密貿易港では、最大のものでしてな。大陸に行ったり、沖縄や南西諸島に行ったり、ああ、このダチュラも、種子が船に乗ってやって来たんでしょう。どこで摘んで来やした?」

「わたしが摘んだんじゃない。さっきの女のひとが――」

「ああ」

主人はうなずいて酒盃をあけた。

「どこで知合いやした?」

「キャンプ場の近くでね」