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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁
酔いがすこし廻って来たのだ。やっとその頃、手や足の先がじんとして来る。
「皆どうにかやってるじゃないか」
トランク男の丹尾や昨夜の女のことを思い出しながら、そう言ってみる。次に、ヒマラヤ杉に囲まれた精神科病室のことが、胸によみがえって来る。五郎は貝殻を掌に乗せて、しげしげと眺める。どうせおれもあの病室に戻らねばならないだろう。瞬間、五郎は眩暈を感じた。
五郎は追われていた。いつの時か、どこの場所かも定かでない。青年の時だったような気がする。なぜ追われていたか、それもはっきりしない。そんな夢をある時見たのか、あるいは何かのきっかけで生じた贋の記憶なのか。
追われて五郎は砂浜を歩いていた。追う者の正体は判らず、姿も見えなかった。しかし追われていることだけは、確かであった。その実感が五郎の全身にみなぎり、彼を足早にさせていた。
漁村があった。浜には網が干してあり、屋根の低い粗末な漁夫の家が並んでいる。磯には海藻が打ち上げられている。岩かげなどにとくにたまっている。大潮の時に打ち上げられ、そのまま浪に持って行かれなくなったのだろう。その藻の堆積は腐敗し、絶望的なにおいを放っていた。