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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

「昨夜もそう言われたよ」

「誰から?」

「鹿児島の湯之浦温泉のあんまさんからだ。このあんまさんは、爺さんだったよ」

五郎があんまを頼んだのは、これが生れて初めてである。今まで彼は肩が凝ったという感じを持ったことがなかった。なぜあんまを呼ぶ気になったのか。ハイヤーの運転手に勧められたからだ。その運転手は、ズクラを獲っていた少年の父親だ。

昨日五郎と少年は吹上浜をあとにして、伊作の町の方に歩いた。自動車一台が通れるほどのせまい路で、両側に畠がひろがっている。少年はしだいに彼に親近感を深めるらしく、自分から進んで、あちこちの風景を説明したりした。いっしょに食事したことが、そんな変化を少年にもたらしたのか。やがて彼は少年を、少年が彼に持つ関心を、うるさく感じ始めていた。

しばらく歩くと、家並が見えて来る。床屋があった。だんだら模様の標識柱はなく、赤い旗が軒に出ているだけである。彼は少年に言った。

「おれはここで髪を刈る。君はもう帰りなさい」

「もっと先い行けば、きれいな床屋があっとに。そん方がよかよ」

「小父さんはここでいいんだ」

彼は強引に床屋に入る。少年は頬をふくらまし、彼につづいて土間に足を踏み入れた。