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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

電文の意味を考えていた。二万円あれば、もちろん東京に戻れる。それなのに何故三田村は、ここに来ようとするのか。しかも外出しないで、宿で待てという。医者に相談したのか、それとも三田村の意志なのか。

〈御用だ。動くな。神妙にせよ〉

捕吏にすっかり周囲をかこまれたような気もする。眼を上げると、女中の姿は見えなかった。

「今日、子飼橋を見て来た」

彼はかすれた声で言った。

「ずいぶん変ったね。あの橋も」

「洪水のためですげな」

「そう。昔はもっと小さく、幅も狭かった。あちこちに馬糞が落ちているような橋だったよ」

「兵隊の頃?」

「兵隊服を着たおれの姿が、想像出来るかい。橋の上の――」

女の指の動きがとまった。

「出来っですたい。お客さんは将校じゃなかね。兵隊ばい」

にがい笑いがこみ上げて来た。女の指が脛の裏側を圧し始めた。

「どうしてお客さんの足ゃ、びくびくふるえっとですか?」

「くすぐったいんだ。指圧慣れがしてないからね」

子飼橋のたもとに、中華ソバ屋があった。その主人は、足がびっこであった。ソバはうまかった。

〈あれは何が悲しかったんだろう?〉

学生の彼に悲しいことがあり、彼は悲しみのかたまりになって、熱いソバを食べていた。