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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

次第に酔いが廻って来て、何だかそこらがはっきりしないような気持になって来た。いろいろとめ度もないことが、頭に浮んで消えた。坊津のことをぼんやり考えていた。あの頃はまだ良かった。坊津郵便局の女事務員は、私が転勤するというので、葉書二十枚をはなむけに呉れた。衣嚢の底に、それはしまってある。まだ一枚も使わない。

ふと自責の念が、鋭く私を打った。桜島に来て以来、私は家にも便りを出さない。桜島に来て居ることすら、私の老母は知らないだろう。私の兄は、陸軍で、比島にいる。おそらくは、生きて居まい。弟はすでに、蒙古で戦死した。俄かに荒々しいものが、疾風のように私の心を満たした。此のような犠牲をはらって、日本という国が一体何をなしとげたのだろう。徒労と言うには――もしこれが徒労であるならば、私は誰にむかって怒りの叫びをあげたら良いのか?

洞窟にこもった話し声が、騒然とくずれ始めたと思うと、出口近くの卓から、調子外れの歌声が突然起り、そしてそれに和すいろいろの声がそれに加わった。歌は「同期の桜」であった。麦酒瓶の底で卓をたたく。歌声は高く低く乱れながら、新しい歌に代って行った。