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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
伊東七十郎は、新左衛門の妻の弟に当るが、甲斐は七十郎をとおして、新左衛門の古武士ふうな人柄を知っていた。
――なにかあるな。
と甲斐は思った。病弱だから保養に出るということはあろうが、湯治ならもっと近くに秋保がある。そこにはやはり藩侯の宿所もあるし、家臣の滞在する設備もととのっている。それをこの遠い青根まで来たのは、保養とはべつに、なにか用件があるのにちがいない。
「晩の食事に招こう」と甲斐は云った、「よければ来てもらいたいと伝えておいてくれ」
隼人は承知して、こういう書状が届いた、と云い、一通の封書を置いて、さがった。宇乃は持って来た薬湯をすすめると、燭台のぐあいを見、火桶の火をみて、次の間へさがった。
甲斐は書状を披いた。それには「首尾よく住み込むことができた」という意味が、簡単に書いてあり、署名は「玄」という一字が記してあった。
甲斐はその文字をみつめた。達弥。玄は「黒」に通ずる、それは放逐した中黒達弥の手紙であった。船岡から放逐するとき、甲斐は彼に一つの使命を与えた。かつて江戸の屋敷で彼が自刃しようとしたとき、ひそかに予告しておいたものであるが、その手紙は、与えられた使命の第一をものにした、ということを意味していた。