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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
手裏のもの
「しかしいそぐな、これまでに遣わした手当だけは働かせなければならぬ、手を切るまえには必ず知らせるように」
――承知つかまつりました。
手裏のもの
甲斐は手紙を読んでいた。
――初めての非番で、向島へ歩きにでかけた、とその手紙には書いてあった。その帰途、思いがけないことで、一人の婦人を助けたところ、その婦人は同じ酒井家の本邸で雅楽頭づきの腰元を勤めており、私を見知っているとのことであった。彼女の本名は柿崎みや、屋敷では滝尾というそうで、ぜひ休んでゆこうとすすめられ、いっしょに近くの茶店へあがった。
――いちどは断わろうと思ったのであるが、「雅楽頭つきの腰元」と聞き、今後なにかの手蔓になるかとも考えて、一刻ばかりその茶店で話しをした。まだ判然とはいえないが、多情多弁な性質らしく、近づくのは危険かとも思ったが、しかしこちらのやりかたによっては、むしろその多情と多弁が役に立つかもしれないので、ほどよくあしらって別れた。
――勘定部屋の支配は特にめをかけてくれるし、同僚との折合も悪くはないようである。もちろん滝尾とのことは充分に注意するつもりだから、その点は安心していただきたい。