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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁

青空文庫

鈴を聞いて塩沢丹三郎が来た。彼の顔がひどく蒼ざめ、異様に硬ばっているのを、甲斐は訝しく思いながら、茶を代えるように命じた。

それから二人は、ほんのしばらく話して別れた。甲斐が「七十郎はどうしているか」と訊いたら、新左衛門は、さきごろ上方から帰って、いま仙台にいる、と答えた。彼は京から長崎までゆき、そこに五十日ほど滞在した、ということであった。

――そうか、と甲斐は心で頷いた。

では河野道円のことは、彼がさぐりだしたのだな。亀千代の新しい侍医が、手をまわして、ひそかに長崎で毒薬を買ったという。新左衛門はどこから出た話か云わなかったが、七十郎が長崎にいたとすれば、彼がさぐりだしたに相違ない。また彼は、新左衛門の云ったとおり、乱暴者ではあるが軽率ではないから、その話に誤りはないだろう、と甲斐は思った。

新左衛門が去ってからは、甲斐は手紙を書いた。江戸の堀内惣左衛門に宛てた、かなり長い手紙だったが、書き終って封をすると、片倉隼人と塩沢丹三郎を呼んだ。

甲斐は丹三郎に手紙を渡し、「明日これを持って、辻村といっしょに江戸へ戻れ」と云った。

辻村平六も、丹三郎とともに、宇乃を送って来たまま、船岡に留っていたのである。