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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
「それを云ってみろ」
おみやはまたこめかみを揉み、ちょっと、と云って立ちあがった。六郎兵衛は舌打ちをした。
おみやは廊下へ出ると、いそぎ足に新八の部屋へいった。彼は火のはいっていない火桶を脇に、机へ向かってなにか読んでいたが、おみやが障子をあけたとたん、ひどく狼狽したようすで、読んでいた草紙本を伏せ、そして顔を赤くした。
「もうよくってよ」とおみやが云った、「兄のほうは大丈夫だからでかけてちょうだい」
「だってまだ」と新八は云い渋った。
「いいの、ほんとよ」
おみやはそう云い、すばやくあたりを見ると、部屋の中へはいって、立ったまま新八の肩を抱き、「可愛いこと」と囁きながら乱暴に頬ずりをした。
「心配は要らないからでかけてちょうだい、あたしもあとからすぐにゆくわ、わかったわね」
新八は弱よわしく頷いた。
「きっとよ」
おみやは紙に包んだ物をそっと彼のふところへ入れ、それから廊下へ出て、厠のほうへ小走りに去った。
おみやが戻ってゆくと、六郎兵衛はふきげんに、眼尻でじろっと見、しかし待ちかねたように「思いだしたか」と訊いた。
おみやはゆっくり坐った、「新さんを使いに借りてもいいでしょう」