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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
野中さんがなだめにゆきました。と新八が云った。帰ったのはずいぶんおそかったから、なだめるのに骨がおれたのでしょう、でもみんなは「柿崎さんが謝罪するなら」という条件で、思い止ったということです。
そのとき庭さきで、老婆の声がした。
「ちょっと待って」とおみやは新八に云って立っていった。
老婆が娘と二人で、そこへ膳の支度をして来ていた。おみやはそれらをはこびこんだ。三品ばかりの皿と鉢に、酒が付いていた。もちろん料理茶屋などはないじぶんのことで、その肴も、めぼりで捕った泥鰌と、煮びたしの野菜に卵を煎ったもの、それに漬物と梅びしおなどであった。
おみやは膳拵えをし、燗鍋に酒を注いで火桶にかけながら、「それからどうして」とあとを訊いた。
「私は詳しいことは知りませんが、とにかくみんな道場へ戻ることになりました」
「それはその筈よ」とおみやが云った、「あの人たち兄からはなれたら、その日から食うにも困るんだわ、これまでずっと兄の世話になってたんだし、出てゆけるわけがないことよ」
「それが、そうではないらしいんです」と新八が云った、「これも詳しいことは知りませんが、道場を出れば扶持を呉れる人がある、というんです」