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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
「二人が夫婦になったことは間違っていたようだ」と甲斐が静かに云った、「おまえが良い妻でなかったと云う以上に、私が良い良人でなかったことはたしかだし、おまえが不仕合せだということも知っていた、だが、これもおまえの云うように、知っていながら私にはどうしようもなかったのだ」
律はまた咽びあげた。「お願いです、あなた」と律はくり返した、「どうか離別などなさらないで、もういちど船岡へ帰らせて下さいまし」
「もうきまったことだ」
「わたくし松山へは帰れませんわ」
「仙台にいるがいい」
「大町の家にですの」と律はすすりあげた。
「ここから呼べば答えられるような、あんな近いところにいろと仰しゃるんですの、ここにあなたがいらっしゃると知って、おめにかかることもできないのに、――あなたはむごいことを仰しゃるわ」
「なにがむごいかということは、やがてわかるだろう」と甲斐が云った、「たのむから泣かないでくれ、人が来る」
忠三郎と十内が膳をはこんで来た。律は立って襖をあけ奥の間のほうへ去った。
「十右衛門に相手をしろと云ってくれ」と甲斐が云った。
忠三郎が給仕に坐り、十内がその父を呼びに立った。