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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁
そこは山の北側の斜面に当り、樅の森に囲まれた狭い台地へおりると、その小屋の横手へ出るのであった。
台地へおりるまえに、周防は坂のおり口に立停って、しばらく展望をたのしんだ。
起伏する丘陵のかなたに、白石川の流れが見え、はるかに遠く、雪をかぶった蔵王の峰が、早朝の日光をうつして、青みを帯びた銀色にかがやいていた。――船岡の町の一部は見えるが、原田家の館は山に隠れて見えない。館に続いている砦山が、朝靄の中に、その頭部だけをくっきりと浮き出していた。
周防はややしばらく、眼をほそめて、遠い蔵王を眺めやった。
「そうだ、青根の湯へ寄ってゆこう」
蔵王へ登る途中に、青根の温泉がある。藩侯の宿所「不老閣」には、重臣たちの部屋もあるので、周防は二三日躯を休めてゆこうと思った。
さきに小屋へいった隼人が、引返して来て、まだ甲斐が戻っていないと告げた。周防は台地へおりていった。
小屋は樅と杉材で造った十坪ばかりのもので、土間がひろく、炉のある八帖に、納戸だけという間取であった。土間に面した炉の一方は、框が切込んであり、土足のままはいって、腰掛けられるようになっていた。