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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁

青空文庫

「そうだろうか」と周防が反問した。

自分が辞任したあと、首席国老になった奥山大学は、しきりに一ノ関と張合っている、と周防が云った。衣川の境界の件、金山の件。また一ノ関はいま、隣接している本藩領の一部を、自分領に取り入れようとしているが、この件でも大学は真向から反対している。これではまるで、事を起こすために国老になったようなものだ、と周防は云った。

「衣川の件はまだ解決しないのか」

「一ノ関は承知しないのだ」と周防はつづけた、「しかもつい最近、私が江戸を立つときに、大学は留物境目について、一ノ関と右京さまに強硬な抗議を申し入れていた」

「それは初耳だな」と甲斐が云った。

砥石の上で、彼が静かに剃刀を返すと、なめらかな石の肌で、剃刀の刃が冷たい音をたてた。

周防は語った。――伊達兵部と田村右京は、亀千代の後見になったとき、両者とも幕府直参となり二万石ずつ加増された。だがその加増された二万石は幕府からではなく、伊達領から分けたものであり、本藩は旧禄のままだから、幕府直参とはいえ、伊達本家の臣として、諸事その掟にしたがうのが当然である。だが、兵部と右京は、その知行地の中で、本藩とは別個に制札を立てたり、夫伝馬、宿送りも他領のようにし、また幕府へ献上する初雁、初鮭なども本藩の済まないうちに、先に献上したりした。