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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 頁

青空文庫

眼には見えないが、今でも少しずつ、押しのけているにちがいないんだ。この松の木を見たら、命というものがどんなものだか、よくわかるだろう。」

次郎の眼は光って来た。そして、徹太郎と松の木とを等分に見くらべながら、耳をすましてきいていた。

「だが――」

と、徹太郎はちらと次郎を見て、

「命も命ぶりで、卑怯な命は役に立たん。卑怯な命というのは、自分の運命を喜ぶことの出来ない命なんだ。……わかるかね。自分の運命を喜ぶって。」

「ええ、わかります。」と恭一が答えた。

「次郎君はどうだい、むずかしいかな。」

次郎はちょっとまごついたが、すぐ、

「運命って、わかんないな。」と素直に答えた。

「なるほど、運命がわからんか。じゃあ境遇と言ってもいい。たとえばあの松の木だ。何百年かの昔、一粒の種が風に吹かれてあの岩の小さな裂目に落ちこんだとする。それはその種にとって運命だったんだ。つまり、そういう境遇に巡り合わせたんだね。そんな運命に巡り合わせたのはその種のせいじゃない。種自身では、それをどうすることも出来なかったんだ。わかるだろう。」

「わかります。」

と次郎はちょっと眼をふせた。