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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 頁
それでも次郎は手を出そうとしない。女の人は箸にはさんだ丸芳露を、ちょっともちあつかっている。
「まあ、ほんとにどうしたというんだね。いつもはお菓子に眼がないくせに。……くださるものは、すなおにいただくものですよ。」
次郎は、お祖母さんにそう言われると、だしぬけに手をつき出して、丸芳露を受取ったが、いかにも厄介な預り物でもしたように、すぐそれを膝の上においた。
「はじめて、お目にかかるものですから、きまりが悪いのですよ。」
と、お祖母さんは取りなすように言って、
「次郎、おたべよ、……お芳さんもひとついかが。次郎が一人ではきまりが悪そうだから、あたしたちもお相伴いたしましょうよ。」
「ええ、いただきますわ。」
二人は次郎の様子に注意しながら、丸芳露をたべだした。次郎は、しかし、食べようとしない。
彼は「お芳さん」という女の名を何度も心の中でくりかえした。そして、さっきお祖母さんが、
「これからうちの人になっていただくんだから――」と言ったのを思いだして、変だなあと思った。
誰もしばらく物を言わない。二人がむしゃむしゃ口を動かしている音だけが聞える。
次郎は畳のうえに落していた眼をあげて、もう一度、そおっとお芳の顔をぬすみ見た。