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けっせんかわなかじま うえすぎけんしんのまき

決戦川中島 上杉謙信の巻

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《決戦川中島 上杉謙信の巻(けっせんかわなかじま うえすぎけんしんのまき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,278 字 · 19 頁

青空文庫

余はそれに答えて、

「信玄が余の背面をつかず茶臼山に現れたのは、余に秘策あるを怖れたからだ。したがって、彼が余らの意表にいでて茶臼山に現れたと見るのは当らない。怯える心はむしろ信玄に強いのだ。余の本営に動揺の色がなければ、蛸めには善光寺の大荷駄を襲うだけの勇気も起るまい。余の策をはかりかねているからだ。救援の兵力にたのむ心を起してはならぬ。万事謙信の胸にまかせて、ただ最後の一戦にのみ備えよ」

余は将兵にかく諭して、日夜妻女山々上に小鼓を打ちならし謡曲にふけった。

果して信玄は余の策をはかりかねたのであろう。五日の後に陣を撤し、川中島を過ぎて海津城に入り、敵軍は合して一ツとなった。我軍は二分したままである。しかも余は依然として歌舞音曲にふけっているから、我が将兵の中には再び安からぬ心をいだく者が起った。余は彼らに諭して、

「我に倍する兵力をもつ信玄が茶臼山の本営を撤して海津城に勢力の合一をはかった心事を考えよ。我が策をはかりかね、怖るる心の故に、倍する兵力を持ちながら、自軍の合一を急ぐのだ。もとより合一した以上は今度は何か仕掛けるであろうが、怯える心の故に、敵の仕掛は慌てているか、用心しすぎているか、どっちにしても迫力を欠くものにきまっている。