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かいじょうのみち

海上の道

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《海上の道(かいじょうのみち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 182,344 字 · 353 頁

青空文庫

しかしそうした偽りの年号が、いかにしてこのように弘く、一般に遵奉せられることになったかというと、ただ乱世の交通不便だけでは説明がつかない。風説の根元には相応な力があり、しかもこれを遠くに運ぶほどの情報組織のあったことが想像せられる以上に、一方民間にも文字ある階級を引きくるめて、是をさもあるべしと思うような、常識なり信仰素地なりがあったものと見なければならぬ。年号の更定には、国家の瑞祥を記念したものもあるがそれは大昔の話、後代は革令革命の理論に基づいて、定まった年次にそれが行われた以外、大抵は何か望ましからぬ異変があった次の年に、改元があるものときまっていた。朝廷の力が衰微して、それさえも計画し難い期間はつづいたのだが、なお大衆はこれを予想し、荒れ狂う飢饉疾疫のさなかにおいて、そういう呪法に近い善政を待ち焦れていたのである。現在もまだ残っている世直しという言葉は、或いはこの頃に始まったものかもしれない。江戸ではたしかに田沼政権の倒壊した際にも、刺客の佐野某を世直し大明神と謂って、墓参りが賑わったという話もある。普通は地震の時の唱え言ぐらいにしか用いなかったが、世の中とは元来農作の豊凶のことであった。