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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
もう此の頃では、年下の児を相手にして、女人の噂などを語り合おうともしなかった。「女人」の二字を口にするのが、瑠璃光丸には何でもない事のように思われるのに、彼には不思議に罪の深い悪事であるように感ぜられて来た。
「自分はなぜ、瑠璃光丸のような無邪気な態度で、女人の問題を扱おうとしないのだろう。眼には尊い御佛の像を拝みながら、なぜ心には浅ましい女人の影が浮ぶのだろう。」
ひょっとしたら、此れが煩悩と云うものではないかしらん。―――そう気が付くと、彼は身の毛のよだつような心地がした。山の上には煩悩の種がないと云う、上人のお言葉を頼みにしては居るものゝ、自分はいつしか煩悩の囚人となって居るのではあるまいか。いっそのこと、彼は日頃の胸中の悶えを、上人に打ち明けて見ようかとも思ったが、「たやすく人に打ち明けてはなるまい。」と、絶えず耳元でさゝやく声が聞えて居た。その悶えは苦しいと同時に甘かった。たゞ何となく、大切に蔵って置きたいようなものであった。
千手丸が十六になり、瑠璃光丸が十四になった歳の春であった。東塔をめぐる五つの谷には山桜が咲き乱れて、四十六坊をつゝむ青葉若葉に、梵鐘の響きが蒸されるような、鬱陶しい、ものうい陽気が続いた。