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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

「それにしても、お前は妄想に迷わされずによく山に残って居た。年は下でも、お前と千手とは幼い時分から機根が違って居た。―――さすがに血と云うものは争われない。」

千手丸は百姓上りの長者の忰、瑠璃光丸はやんごとない殿上人の種である。「血と云うものは争われない。」と云う文句は、二人の器量や品格が比較される度毎に、以前から屡※(二の字点、1-2-22)人の口の端に上って、瑠璃光の耳にも響いて居たが、それを上人から聞かされるのは今日が始めてゞあった。

「ほしいまゝに掟を破って、山を脱け出るとは憎い奴だが、そんな愚かな真似をした罰で、憂き目を見て居るだろうと思うと、不便にも感ぜられる。今ごろは犬に食われたか賊に浚われたか、恐らく無事で生きては居まい。もう此の世にはいないものとあきらめて、冥福を祈ってやるとしよう。それにつけてもお前は決して煩悩を起してはなりませぬぞ。千手丸がよい見せしめだ。」

こう云って上人は、悧発らしい、くり/\とした瑠璃光の眼の球を覗きながら、「何と云う賢い児だろう。」と云わぬばかりに、その背筋を撫でゝやった。

毎晩瑠璃光はたった一人で、上人のお次の部屋に寝なければならなくなった。