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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
しかし藝術家となると、勿論学問も技術も大事であるが、それよりもっと大事な修養の方面がありそうである。
己の想像力をもっと豊富にし、己の人生観をもっと深く鋭くする為めに、己は何よりも先ず、世間と云うものを廣く知り、廣く観察したい。藝術は自然の摸倣でない迄も、自然を見ずには、藝術を作る事は出来ない。然るに奉公人の周囲を取り巻く自然なり世間なりは、極めて色彩の乏しい一小局部に限られて居る。此れが己は一番残念で溜らない。
それから第二に、己はもう少し金と時間との餘裕が欲しい。単に学者になるだけの事なら、苦学をしても成し遂げられるが、藝術の方はそうは行かない。貧乏な家に生れて、立派な詩人や畫家になった人間も随分あるけれど、己のような素質と傾向とを持つ、一種の藝術家には、或る程度以上の貧乏は絶対に禁物である。或る程度以上の貧乏とは、つまり労働者として稼がなければ、生活して行かれない程の貧乏をさすのである。何処の商店でも同じように、われ/\ぐらいの年配の小僧は、体のいゝ労働者であって、日がな一日、体を激しく使う事は、車夫や馬丁と殆んど択ぶ所はない。車夫や馬丁が、車を挽いたり馬を追ったりしなければ、飯が喰えないと同様に、われ/\も重いビールの箱を担いだり、自転車を走らせたりしなければ、直に主人から暇を出される。