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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁
公園の出口の、千束町の溝の前から自転車に乗って、紺碧の空の下に霞んでいる上野の森を目標に、坦々たる一本路を一直線に走って行く己は、何だか体に羽根が生えて、地面から二三尺も高い所を飛んで居るような心地がした。己は無性に両足へ力を入れて、目まぐるしい通行人の間を分けながら、真っしぐらに突き除け駆け除けて行った。こんな天気とこんな気分とがいつ迄も続いたら、己は恐らく地球の果てまで駆けて行っても疲れないだろう。
しかし、森田屋へ着いた時には息をせいせい弾ませて、汗をびっしょり掻いて居た。
「どうしたい池田屋さん、大分せかせかして居るが、ひどく忙しそうじゃないか。」
と、帳場に控えて居た其処の旦那がお世辞を云った。
「えゝ、今日は方々を廻らなけりゃならないんで………」
と云いながら、己は二十六圓五十銭の書き付けを出した事迄覚えて居るが、それから後はすべて上の空であった。己の魂はとっくに浅草の公園へ、遊びに行って居るのであった。
貰った金をロクロク改めもせずに、直ぐ公園へ取って返したのは、大方一時半ごろであったろう。ちん屋のバアへ立ち寄って、ブランデエの強烈なのを二三杯ぐいと引きかけて、己は早速世界館へ舞い戻った。