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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

そう云う行いは何よりも一番悪い。そう云う性質を改めないと、お前は大きくなってからロクな人間にはならないぞ」

そう云われても、沼倉はビクともせずに、例の沈鬱な瞳を据えて、上眼づかいに貝島の顔をじろ/\と睨み返して居る。その表情には、多くの不良少年に見るような、意地の悪い、胆の太い、獰猛な相が浮かんで居た。

「なぜお前は黙って居るのか。先生の今云ったことが分らないのか」

貝島は、机の上に開いて置いた修身の読本を伏せて、つか/\と沼倉の机の前にやって来た。そうして、飽く迄も彼を糺明するらしい気勢を示しながら、場合に依っては体罰をも加えかねないかのように、両手で籐の鞭をグッと撓わせて見せた。生徒一同は俄かに固唾を呑んで手に汗を握った。何事か大事件の突発する前のような、先とは意味の違った静かさが、急に室内へしーんと行き亙った。

「どうしたのだ沼倉、なぜ黙って居る? 先生が此れほど云うのに、なぜ強情を張って居る?」

貝島の手に満を引いて居る鞭が、あわや沼倉の頬ッぺたへ飛ぼうとする途端に、

「僕は強情を張るのではありません」

と、彼は濃い眉毛を一層曇らせて、低くかすれた、同時にいかにも度胸の据わったしぶとい声で云った。