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こぞうのゆめ

潤一郎ラビリンスV――少年の王国

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスV――少年の王国(こぞうのゆめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 71,989 字 · 144 頁

青空文庫

ように沼倉の身に間違いでもあれば、自ら進んで代りに体罰を受けようとする。沼倉にどれ程強い腕力や胆ッ玉があるにもせよ、彼とてもやっぱり同年配の鼻ったらしに過ぎないのに、「先生が斯う云った」と云うよりも、「沼倉さんが斯う云った」と云う方が、彼等の胸には遥かに恐ろしくピリッと響くらしい。貝島は永年の間小学校の児童を扱って、随分厄介な不良少年や、強情な子供にてこ擦った覚えはあるが、此れ迄にまだ沼倉のような場合を一遍も見た事はなかった。その子がどうして斯く迄も全級の人望を博したのか、どうして五十人の生徒をあれ程みごとに威服させたのか、それはたしかに多くの小学校に於いて、餘り例のない出来ごとであった。

全級の生徒を慴服させて手足の如く使うと云うこと、単にそれだけの事は、必ずしも悪い行いではない。沼倉と云う子供にそれだけの徳望があり、威力があってそうなったのならば、彼を叱責する理由は毛頭もない。たゞ貝島が怖れたのは、彼が稀に見る不良少年、―――とても一と筋縄では行けないような世にも恐ろしい悪童であって、その為めに級中の善良な分子までが、心ならずも壓迫されて居るのではないだろうか、追い/\と自分の勢力を利用して、悪い行為や風俗を全級に流行させたり教唆したりしないだろうか、―――と云う事だった。