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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《牢獄の花嫁(ろうごくのはなよめ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 頁
春雨のような光線が、ふたりの静かな姿へ、幸福なかがやきを注いだ。
と、そこの、火燈口の小襖を、外からかろく叩く者があった。
「塙氏、塙氏」
ぎょっとして、男女は、跳び離れた。
「誰ですッ?」
「誰でもありませぬ」
すっと、開いた所に、東儀与力のすがたがいっぱいな巨きさに見えた。
「やっ、其許は」
と、郁次郎が、そばの刀に手をのばすまに、東儀は駈けこんで、その利腕を、ぐいと捻じ上げた。
「な、なんとなさる?」
「多言は要しますまい。手前の態度をもって、武士らしく、お覚悟あっては如何ですな」
「無断で室へ踏みこむのみか、いきなり縄をかけて、武士らしくとは、何たる暴言。この郁次郎には解せませぬ、理由を仰っしゃい」
「ともあれ、南町奉行所までご同道願おうではござらぬか。こう穏当に申すのも、江漢老先生のご子息と思えばこそじゃ。見苦しく振舞われては、父上のお顔に、泥の上塗りでござろうぞ」
「父の顔に泥を塗る! これや、いよいよ聞き捨てにならん」
と、郁次郎は色をなして、真四角に、膝を正した。
「逃げも、隠れもいたさん、どういうわけで、拙者をお召捕りに相成るか、それを承ろう! またそれが、武士に縄をかける作法ではないか」